症状と診断

ここからは、従来型のうつ病である、「メランコリー親和型うつ病」について、簡単にまとめます。

「寝つきが悪く、夜中に何度も目が覚める」、「仕事や勉強が手につかず、能率が下がった」、「不安感が続き、イライラして家族に当たってしまう」、「日常生活の中で判断できないことが増えた」、「休日にも仕事のことばかりが気になり、リラックスできない」、「以前は好きだった読書も、今はする気になれない」、「テレビを見ていても、内容に集中できず、ただ画面を眺めているだけだ」、「最近は毎日気分が沈み、理由なく涙が出てくる」、「鉛を背負っているような何ともいえない嫌なだるさがある」、「食べても味をあまり感じず、まるで砂を噛んでいるようだ」、「生きていても希望も持てない」、「自分のせいで周りに迷惑をかけてばかりで申し訳ない」、「どこか遠くへ行きたい」、「天変地異や交通事故で、あっさりと死にたい」、…。

よくある訴えを挙げましたが、このような、抑うつ気分、興味・関心の減退、自責感、自信喪失、無価値感、集中力・決断力の低下、意欲の低下、睡眠障害、食欲不振、身体のいろいろな部分の痛み、疲労・脱力、死についての反復思考といった症状のうち、抑うつ気分または興味・関心の減退の少なくとも一つと、その他の定まった数の症状が、2週間以上、ほぼ毎日続くような場合、うつ病と診断します。そして、特に、睡眠障害は、うつ病の必発症状といわれ、うつ病を早期に疑う際の最もわかりやすい指標にもなっております。

なお、うつ状態とは、うつ病の診断基準を満たさない程度に上記のような症状がみられる場合の状態像をいいますが、うつ病以外のこころの病に伴ってみられることも多く、例えば、双極性感情障害や統合失調症、社会不安障害、全般性不安障害、パニック障害、強迫性障害、ストレスに対する心理反応である適応障害、外傷後ストレス障害(PTSD)、摂食障害、社会性の発達に困難を持つアスペルガー症候群などの発達障害、情緒不安定性や自己愛性などの人格障害、甲状腺機能低下症や脳梗塞、膠原病、パーキンソン病などの身体疾患、アルコール依存・薬物依存、副腎皮質ステロイドや血圧降下薬などの服用、などによってしばしば引き起こされます。また、うつ状態から、うつ病に発展してしまうこともよくあります。

典型的なうつ病の症例

うつ病では、こころだけでなく、からだにも変調が起こり、頭部圧迫感、頭重感、頭痛、口渇、味覚異常、吐き気、のどに何か引っかかっている感じ、目眩、耳鳴り、難聴、胃部不快感・膨満感、便秘・下痢、食欲低下・体重減少、胸部圧迫感、動悸、息苦しさ、腰痛、関節痛、手足の痛み・しびれ、冷感、ほてり、頻尿、残尿感、排尿困難、性欲減退、疲労倦怠感、といった自律神経症状や内分泌系症状などもよく出現します。

そして、これらの身体症状により、うつ病の人は、まず、精神科よりも、内科や婦人科、脳神経外科などを受診される傾向があります。しかし、いろいろと検査を受けても、結局、はっきりとした原因が見つからないことが多く、そして、このことが問題なのですが、医師の方も、患者さんが主に訴える身体の症状にばかりに注意を向けてしまうため、こころの問題が見過ごされ、適切な診断と対応がなされないまま、症状を長引かせてしまう場合もよくあるのです。

うつ病は、「こころの風邪」ともよくいわれますが、「誰でもが罹る可能性のある、風邪のようにありふれた病気」という意味です。決して、「放っておいても自然に治ってしまう、大したことのない軽い病気」という意味ではありません。