うつ病
ストレス社会といわれる現代、テレビなどでもうつ病がよく取り上げられ、その症状や予防についての認知度も随分と高まってきているところですが、国の調査によれば、うつ病と診断できる状態の人が医療機関を受診している率は、未だ3割程度と低いのが現状であります。
厚生労働省でも、うつ病は極めて重要な健康問題であると捉えられており、治療を必要とする人々を速やかに専門医療に繋げていけるよう、うつ病の理解への普及啓発のみならず、早期発見、専門医への受診促進、社会的支援など、多岐にわたる取り組みが現在行われているところであります。
2010年06月18日19時58分
症例
<42歳・男性 証券会社勤務>
1年前の課長への昇進をきっかけに、営業成績の取りまとめといった管理業務などで仕事が忙しくなり、毎日の残業や休日出勤が当たり前の状態になっていた。時々、胃痛が強まり、内科で胃薬を処方してもらうこともあったが、年度末の3月中旬頃から、声の覇気がなくなり、表情も暗くなり、元気がなくなってきた。作業能率の低下や単純ミスなどが増え、上司からもよく注意されるようになった。これらの状態は多忙によるものと自分で判断し、「仕事をもっと効率的にこなしていけば治ります」と上司には説明し、そのまま仕事を続けていた。しかし、最近になって、「皆に迷惑ばかりかけている」と妻に嘆くようになり、朝起きて仕事に行こうとすると体に力が入らず、欠勤してしまう日もみられるようになってきたため、心配した妻に連れられ、心療内科を受診した。
<20歳・女性 大学教育学部1年>
中学生の頃から、気分にむらがあり、生活の些細なことでイライラしては、高校教師であった母親に当たってしまうことが多かった。大学生になり、好きだったテニスサークルに入部したが、ある日、先輩の一人から、きっちりと朝の練習に来ないことを注意されたことがひどくショックで傷つき、それ以来、部活動には参加できなくなった。それから、講義に出ても集中して話を聴けず、出された課題の提出期限が迫ってくると、憂うつな気分が続き、何とも言えない体のだるさや頭痛も強まり、欠席してしまうということを繰り返すようになった。しかし、休日には、同じ学部の友人とドライブに出かけたり、帰宅後も楽しかった出来事などについてメールで語り合ったりすることはよくしていた。1年の夏休みが終わり、新学期になってからも、夜になると気分がふさぎ込み、朝はベットから起き上がれないという状態が続くため、単位が足りなくなることを心配し、心療内科を受診した。
2010年06月18日19時49分
症状と診断
「寝つきが悪く、夜中に何度も目が覚める」、「仕事や勉強が手につかず、能率が下がった」、「不安感が続き、イライラして家族に当たってしまう」、「日常生活の中で判断できないことが増えた」、「休日にも仕事のことばかりが気になり、リラックスできない」、「以前は好きだった読書も、今はする気になれない」、「テレビを見ていても、内容に集中できず、ただ画面を眺めているだけだ」、「最近は毎日気分が沈み、理由なく涙が出てくる」、「鉛を背負っているような何ともいえない嫌なだるさがある」、「食べても味をあまり感じず、まるで砂を噛んでいるようだ」、「生きていても希望も持てない」、「自分のせいで周りに迷惑をかけてばかりで申し訳ない」、「どこか遠くへ行きたい」、「天変地異や交通事故で、あっさりと死にたい」、…。
よくある訴えを挙げましたが、このような、抑うつ気分、興味・関心の減退、自責感、自信喪失、無価値感、集中力・決断力の低下、意欲の低下、睡眠障害、食欲不振、身体のいろいろな部分の痛み、疲労・脱力、死についての反復思考といった症状のうち、抑うつ気分または興味・関心の減退の少なくとも一つと、その他の定まった数の症状が、2週間以上、ほぼ毎日続くような場合、うつ病と診断します。そして、特に、睡眠障害は、うつ病の必発症状といわれ、うつ病を早期に疑う際の最もわかりやすい指標にもなっております。
なお、うつ状態とは、うつ病の診断基準を満たさない程度に上記のような症状がみられる場合の状態像をいいますが、うつ病以外のこころの病に伴ってみられることも多く、例えば、ストレスに対する心理反応である適応障害、社交不安症、全般不安症、パニック症、強迫症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、双極性障害、統合失調症、社会性の発達に困難を持つ自閉スペクトラム症などによってしばしば引き起こされます。また、うつ状態から、うつ病に発展してしまうこともよくあります。
2010年06月18日19時40分
身体科への受診が多い訳
うつ病では、こころだけでなく、からだにも変調が起こり、頭部圧迫感、頭重感、頭痛、口渇、味覚異常、吐き気、のどに何か引っかかっている感じ、目眩、耳鳴り、難聴、胃部不快感・膨満感、便秘・下痢、食欲低下・体重減少、胸部圧迫感、動悸、息苦しさ、腰痛、関節痛、手足の痛み・しびれ、冷感、ほてり、頻尿、残尿感、排尿困難、性欲減退、疲労倦怠感、といった自律神経症状や内分泌系症状などもよく出現します。
そして、これらの身体症状により、うつ病の人は、まず、精神科よりも、内科や婦人科、脳神経外科などを受診される傾向があります。しかし、いろいろと検査を受けても、結局、はっきりとした原因が見つからないことが多く、そして、このことが問題なのですが、医師の方も、患者さんが主に訴える身体の症状にばかりに注意を向けてしまうため、こころの問題が見過ごされ、適切な診断と対応がなされないまま、症状を長引かせてしまう場合もよくあるのです。
うつ病は、「こころの風邪」ともよくいわれますが、「誰でもが罹る可能性のある、風邪のようにありふれた病気」という意味です。決して、「放っておいても自然に治ってしまう、大したことのない軽い病気」という意味ではありません。
2010年06月18日19時35分
誘因となるストレス
現代社会はストレスに満ち溢れており、職場や学校、地域、家庭など、あらゆる生活の場面において、ストレスとなる要因は著しく増大しております。
上司によるパワーハラスメントやセクシャルハラスメント、長期間続く時間外労働や休日労働などによる心身の疲労、能力を超えて多大な責任を負わされる職務、罵倒され、理不尽な指導を受ける職場環境、あるいは、学校や近所での悪口、嘲笑、無視などのいじめ、また、姑との同居や独りでの育児・家事といった他人からみれば些細なことと思われることでさえも、本人の主観的な辛さが大きいのであれば、十分に強いストレスとなり、うつ病の大きなきっかけになってしまいます。
さらに、大切な人との死別や離婚、失業、失恋、身体疾病、天災、犯罪、事故などはもちろんですが、結婚や進学、就職、昇進、転居などの良い出来事であっても、大きな環境の変化は、心身の大きな負担になってしまうこともよくあります。
2010年06月18日19時29分